20 耐震補強設計は、(公財)鉄道総合技術研究所の指導を得て、既設高架橋の耐震照査方法や大規模地震時の要求性能の設定、補強対象部材の選定を行いました。耐震照査では、大きな地震を受けると柱の壊れ方がせん断破壊することがわかりました。柱のせん断破壊は、構造物が崩壊に至るなどの重大な被害につながるため、せん断破壊しないように柱を補強することを優先しました。さらに、地震動を受けると柱のねばりで地震に耐える「じん性設計」を加えることで、より安全性の高い構造物を目指す耐震補強を進めることにしました。 耐震補強工法は、引張強度の高い材料を柱に巻き立てる方法が一般的です。当初は、柱に帯鉄筋を配置した後にモルタルを吹き付ける吹付モルタル工法を施工し、柱に近接して支障物がある場合などは補強厚を小さくできる炭素繊維シート補強を採用しました。その後、施工性に優れたRB工法や店舗内の柱について一面が露出していれば施工可能な一面耐震補強工法といった新たに開発された新工法を採用しています。新工法については、採用している鉄道事業者にヒアリングを行い、西鉄の鉄道構造物に適用できるか、設計手法の整合は図られるか、検討を重ねたうえで採用に至っています。 2022年12月、同線の薬院〜大橋間の高架区間のうち、高宮駅部を除く高架橋柱の耐震補強工事⑨が完了しました。現在、高宮駅部の耐震補強設計を継続実施しています。同線のなかでも1日当たりの平均乗降者数が4番目に多い久留米駅部についても、順次、耐震補強設計と補強工事を進めています。 近年、大規模地震のほかにも局所的な集中豪雨など、これまでに想定できなかった自然災害が発生しています。わたしたちは、西鉄天神大牟田線・貝塚線の鉄道のり面や河川と交差する鉄道橋梁の降雨対策にも取り組んでいます。明治時代から建設されている鉄道は、建設後の経年が永くとも、今も列車の安全運行をしっかりと支えています。無筋コンクリートやレンガで造られた往年の構造物については、補強方法が確立されていないため、今後どのように安全性を高めていくか、課題にチャレンジしていきます。 鉄道構造物は建設すれば、それで終わりではありません。わたしたちは、鉄道高架の設計で新線建設の技術を得ることができました。そして、耐震補強の設計で補修・補強に係る知見を得ることができました。わたしたちは、耐震補強も鉄道のメンテナンスサイクルのひとつと考えています。今後も継続してこれらの技術と知見を活かし、より良い品質と技術に優れる設計、メンテナンス手法を提供し、鉄道を支えるコンサルタントとして地域社会への貢献を目指していきます。⑨耐震補強工事中(当社大橋社屋2階)⑨耐震補強済み高架橋柱(当社大橋社屋駐車場)⑨一面耐震補強工法(福岡〜薬院間)鉄道・軌道これからも「にしてつ電車」のために
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